私は靴作りに携わるまで「漉く(すく)」という言葉を使ったことがありませんでした。
もしも普段よく使っているという方は、紙や革を扱う仕事か趣味を楽しんでおられることでしょう。
それほど一般ではなじみのない言葉です。
革に限って使う場合、「漉く」という言葉には、薄くして厚みを調整するという意味があります。
特に革を貼り合わせる箇所に漉きを入れます。
どうして革の厚みを調整しなけらばならないのでしょうか?
革をそのまま重ねるとその部分の厚みは2倍になります。
そうすると、機能や見た目に影響を及ぼすことがあります。
例えば靴の場合、歩いたときに足に痛みや違和感を覚えます。
そのため適切な厚みになるまで漉く必要があります。
それには革包丁やナイフを使い好みの厚みに革の床面を削ります。
しかし漉きを入れる箇所が多い場合、手漉きでは大変です。
そのために「漉き機」というものがあります。
ニッピー漉き機という広く使われている機械です。
黒くて重厚感があります。
持ち運んだことがあるのですが、大変重いです。

今も昔も変わらないデザインですね。
中央やや左に見える円柱の刃が回転し革を漉きます。
革の幅によって押さえを替えます。
押さえをセットしたら準備完了です。

足を踏むとモーターが動き、革がスライドしながら回転する刃で漉かれていく仕組みです。

漉き機にかけた後の床面(裏面)です。
白くなっているのでよくわかります。

パーツによって漉きを入れている幅に違いがあることにお気づきだと思います。
トップライン、タン、クオーター、かかとの縫い割り、ライニングなどすべて漉きの厚みや幅は異なります。
強度を持たせるため厚みを残したり、まったく段差をなくしたりします。
そのために抑えの高さや角度を変えて調整します。
たとえば下の画像を見ていただきたいのですが、下に行くにしたがって漉きの幅が大きくなっています。
これはウィールをかけるときに引っ掛けたり、段差ができないようにするために底にいくにしたがって薄くしています。

下の画像はサイドライニングで、アッパーの補強に使うパーツです。
このときは幅の広い押さえに替えます。
これは全漉きと言って、全面を同じ厚みに薄くするためです。

床面からみると、全面が漉かれたのが分かります。

このように靴の箇所によって厚みや幅を調整し漉きます。
漉き機はそれを変幻自在に行ってくれます。
良い仕事をしてくれる貴重な存在です。