大阪で靴作りを学んでいた時、近くの職人さんを尋ねたことがあります。
西成区には靴を作るメーカーや卸問屋さんが多く立ち並んでいます。
そこを歩いていると、いかにも靴の製作に携わる職人の作業場といった感じの工房を見つけました。
突然の訪問でしたが、ベテランの職人さんが温かく迎え入れてくださいました。
西成で長年製甲師をされている方でした。
製甲師というのは、アッパーと呼ばれる靴の上の部分を製作する職人さんのことです。
革を貼り合わせたり、ミシンで縫ったりする方ですね。
この製甲師さんは作業台に革包丁をきれいに9本並べていました。
「なぜこんなに揃えているんですか?」
と尋ねました。
靴を学んでまだ1年生の自分は、たくさん揃える理由が分かりませんでした。
普通だったら、革包丁の切れ味が悪くなれば研ぎ直したらいいのでは?と思ったからです。
その職人さん曰く、途中で手を止めないために何本も揃えているそうです。
自分もメーカーに勤めて一日何足か裁断して分かったことですが、途中で研いでしまうと、裁断面が変わってしまうことがあるんですね。
一度作業を始めると手を止めたくないということは今ではよくわかります。
その温かいベテランの職人さんは今もお元気にされているのでしょうか?
ということで、これからアッパーに使う革を裁断します。
9本とまではいきませんが、革を裁断するナイフです。
しっかり研いで、準備万端です。