外羽根と内羽根



 これまでレディースとメンズの靴の製造に携わる機会に恵まれたのですが、それによって靴づくりのそれぞれの面白さを経験することができました。


 

 靴を学び始めた頃、靴業界に携わる方に言われたことで今でも忘れられない言葉があります。


 「紳士靴はどれも同じでつまらない」


 確かにメンズはレディースの靴に比べるとデザインの幅は限られているかもしれません。


 デザインを大きく分けると外羽根と内羽根、ローファー、ブーツなど確かに数えられる程度です。

 メンズで何か時代の変化を感じられることと言えば、つま先の長さや形ぐらいかもしれません。


 

 一方でレディースは、毎年様々なデザインの靴が無限に生み出されています。


 その時はなんでレディースとメンズでこんなに違うのだろうと感じましたが、靴づくりに携わるうちにその理由について少しずつ理解することができました。


 歴史的な背景、男性と女性の靴に対する見方の違い、甲を覆うデザインは制約が多いこと、また足の構造的な理由など様々です。

 それらすべてを考慮に入れて平面の革を立体的に作り上げようとすると、どうしても同じような箇所にラインが来てしまいます。
 
 一方でレディースは幾分制約が少ないため、デザインする側にとっては面白さを感じるかもしれません。

 確かにメンズはレディースに比べるとベーシックなデザインかもしれませんが、その中においても様々なメンズの靴メーカーは多くの制約の中で新しいデザインを生み出そうと日々努力しています。

 そういったことを考えると、制約がある中でそれぞれのブランドの個性が表れているのはすごいことだと思います。


 

 さて、自分も靴のデザインの可能性を探っている一人です。


 そのため、お客様からデザインに関して何かご提案いただくととてもうれしく思い、どうすれば実現できるだろうかと喜んで考えます。

 しかしとても残念なことに、中には構造上不可能であることをお伝えしなければならないこともあります。


 それでも、できることを探っていると新たな美しいラインを見い出すことはたくさんあります。

 できることとそうでないことの境界があるとすれば、その境界を探るときに何か新しいものが生まれるのを感じることがあります。

 

 例えばこの靴をご覧ください。






 この靴はアウトサイドは外羽根になっていて、インサイドは内羽根のデザインを応用しています。



 脱ぎ履きのしやすさや歩いたときに違和感を感じないといったことなど、デザイン以外の要素もクリアするために試行錯誤しました。

 

 あまり見ないデザインですので、これをご覧になって皆さまがお感じになることは様々だと思いますが、何かデザインの幅が一つ広がったように感じています。


 これまでと変わらないものを作り続けることと、新たなものを生み出そうと信じて作ることは、私にとって靴を作るエネルギーになっています。