今回はアノネイのボカルーカーフで靴を作りますので、この機会に革の話をしたいと思います。
このブログをご覧いただいている方はきっと、靴や革製品がお好きな方だと思います。
よくご存じかもしれませんが、フランスのアノネイというタンナー(革を製造するメーカー)の革です。
これはアルプスの山麓で育った牛の革が使われています。
さて、アノネイに限らないことですが、フランスの靴やカバンやその他に使われる革はとても柔らかいですよね。
なぜなんでしょうか?
その答えにたどり着くために、ここで少し革全体のお話をしたいと思います。
一部の爬虫類の革を除いて、そもそも革というものは食肉の副産物なんですね。
つまり革を作るために牛を育てるのではなく、牛肉を食べると皮(鞣し加工した後は革)が余るのでそれを使いましょう、ということです。
そのため、出来上がる革の質はそれぞれの国の食文化を反映します。
例えば、イギリス人の多くは、しっかりした噛み応えのある肉を好みます。
そのため、成牛かそれに近い牛から革が作られ、その革質に合うように製法も堅牢になります。
その結果として、どっしりとした雰囲気を持つ靴が出来上がります。
イギリスの紳士靴はまさにその通りですね。
一方で、フランスやイタリアでは柔らかい仔牛の肉が好まれます。
そのため、そこから出来上がる革も小さくて柔らかくなります。
厚みがあってしっかりした革を受け止めるための製法を必要としないため、デザインの自由度が高くなり、結果として軽やかな雰囲気の靴が作られます。
フランスのブランドがレディースの靴を得意とする理由がなんとなくわかりますね。
さて、今回はそのフランスのアノネイというタンナーの革を見ていただきたいと思います。

一枚革になります。
右側が頭で、左側がお尻です。
つまり右の上端と下端が前足で、左の上端と下端が後ろ足になります。
右側の中心に大きなシワがたくさんあるのがお分かりでしょうか。
牛は草を食んだりして首をよく動かすので、大きなシワがあります。
この部分は靴には使いません。
シワが目立ってしまうのと、歩いた時に不自然なシワができてしまうからです。
また、四隅の足付近や上下のお腹部分も使いません。
首に比べると大きなシワは少ないのですが、伸びやすい部分なんです。
裏返して見るともっとわかりやすいのですが、革質が極端に悪くなります。
そのため、靴を作る上で影響するだけでなく、履いているうちに形が崩れたり、一部分だけ伸びてしまうことも考えられます。
結局、靴として使えるのは、背中やおしりの中心部分となってしまいます。
さらに傷や血筋(血管の跡)、虫刺され跡などを避けると、使える部分はさらに絞られてきます。
さらに、パーツを切り取る方向も決まっていますので、一枚の革で取れる部分は限られています。
しかしこれは、あくまで自分の基準です。
メーカーによっては、もっと広い範囲で使用するというところもあります。
ここでご理解いただきたいことは、どのメーカーでも、なるべく革を大切に使いたいという思いは共通であるということです。
どのように大切に使うかが、メーカーによって考え方が異なります。
メーカーによっては、なるべく多くの部分を靴に使うために、シワや傷などは顔料を吹き付けて目立たなくします。
あるいは、最初から顔料が厚く塗られて傷などが目立たない革を購入します。
その一方で、血筋やシワは革の個性ととらえて敢えて省かないところもあります。
どれがよいかということをここで論じるのは望みません。
なぜなら、それぞれの靴や革に対する考え方はどれも納得できるものだからです。
革に加工を施すことによってより多くの人に製品を届けることもできますし、それぞれの革の特徴を残すなら革の風合いを楽しむこともできるからです。
私の場合、履き心地や永く履き続ける上でよくない影響を与えると思われる部分は省きます。
その部分はサンプルシューズや仮縫い用の靴に使います。
さて、このような革の特徴や、革に対する作り手それぞれの考え方についてお伝えしましたが、その理由をこれから取り上げます。
下のボカルーカーフを見ていただけるでしょうか。


画像ではわかりにくいのですが、全体的に見ると革に少し色ムラ(染めムラ)があるのがお分かりでしょうか?
このムラをあえて残しているのが、ボカルーの特徴の一つになります。
一方で、革によっては顔料を吹き付けて層を作り、革のシワなどを目立たなくしたり、ピカピカに仕上げる方法があります。
この革はそれとは逆で、染料を使って革が本来持っている風合いを残しています。
そのため手入れしていくうちに革の表面が変化していきます。
結論として、経年変化を楽しんだり、革が持っている本来の風合いを楽しみたいという方には、この革をおすすめいたします。
製作過程は、これからのブログで取り上げたいと思います。
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